私の超高速中国語学習法(6) 発音をマスターした者の視点から(2)

今日は、中国語の有気音と無気音の違いに対する私の認識を述べる。
私は中国語の発音を特訓したことが原因で、今では日本語の濁音の発音ができなくなっている。
中国語の子音のk/g,q/j,b/p,t/d,zh/ch,z/cでは、有気音と無気音が対になって存在する。これが日本語のカとガ、チとジ、バとパ、タとダ、ヅとツの清音、濁音の組み合わせに相当する。元々日本語には存在しなかった濁音とは、中国語のこれらの組み合わせを正確に分別するために考えられたものであると言われている。よって、日本人は濁音を使用することで中国人との音声による円滑なコミュニケーションを図って来ることができたのである。更に清音、濁音の他にも、古い日本語ではヰ、ヱをイ、エではなくウィ、ウェと発音(これはヰ、ヱの表記の元になる「為」、「恵」の漢字が中国語でwei「ウェイ」hui「ホェイ」と発音されることとほぼ一致している)していたり、昭和時代初期以前に生まれた人は、一部の特定な漢字をカ→クヮ、ガ→グヮというルールで発音するよう教育されている(小泉八雲の「怪談」は英文でkaidanではなくkwaidanと表記される。濁音が清音になっている違いはあるが、中国語の「怪:guai」という漢字の読みと一致する。)こともまた中国語によるコミュニケーションを図りやすくするために日本人が考案したものと考えられる。よって中国語の発音を日本語で表記する場合は、これらを積極的に利用した方が中国語の発音についての理解を深めるのに役立つことになると考えられる。
だが、中国語の有気音と無気音の違いはそのまま日本語の清音と濁音にはならないことを私は承知だ。私も中国語の発音を学習して間もない頃は、無気音を日本語の濁音で発声して「あなたの発音は有気音に聞こえる」と指摘されたものだが、これを素直に聞き入れたり、有気音と無気音の発声法の違いを更に深く学習したことにより、今では日本語の濁音を中国語の無気音で発音するようになってしまったのである。日本人の聞き手には私の発音が少し異様だと思われることもあるが、日本語でのコミュニケーションにおいては全くと言っていい程障害は無い。現在、すっかり中国語の有気音・無気音の区別を熟知して無意識に正確な中国語の発音ができるようになっているが、尚も言わせてもらえれば、中国語の無気音を清音で発音するということは間違っている。
さて、ここで次のリンクをクリックし、当然ながら正確な中国人による中国語の発音で有気音と無気音の違いを皆さんの耳で聞き比べていただきたい。百聞は一見に如かずではなく、ここでは「百見は一聞に如かず」という喩えが通用すると思う。
paobu nanjing
始めのpaobuは、ジョギングをするというニュアンスの動詞または名詞である。次のnanjingは南京という地名である。間違った中国語教育法では、日本人にはパオブー、ナンジンと聞こえるこれらの単語をパオプー、ナンチンと発音せよとなっている。
この中でpaoが有気音、buとjingが無気音である。聞いてみれば違いがハッキリと分かるであろうが、有気音はまず始めに破裂音や摩擦音などの子音が強く発生し、子音の発声が終わった後に急激に声帯を震わせて母音を発声する。一方、無気音では子音をそれ程強く発声しないが、有気音との明確な違いは母音の発声が子音の発声とほぼ同時に、それも穏やかに行われるということである。これによって、遠くにいる聞き手が子音の持つ高い周波数の音声を聞き取れなくても、母音の発声タイミングと発声の瞬間が急激か緩慢かの違いで有気音と無気音の区別が可能なのである。
プロレスラーのアントニオ猪木は、全盛時代、試合に勝つ度にリング上で「ダァーーッ!!」という雄叫びを上げたが、これを聞いて「あれは、実はタァーーッ!!と叫んでいるのだ」と言った日本人は一人もいない。
私自身はプロレスの生興行を数回観戦した経験を持つが、プロレス会場では大勢の観客がいて大変に騒々しいため、体格が良く声も一般人より遥かに大きいレスラーがリング上で何か意味のある言葉を大声で発しても、リングサイドから20mも離れた観客席ではまずその言葉は聞き取れない。これは周囲のノイズによりレスラーの音声から子音成分の音声がほとんどカットされてしまっているからである。聞こえるのは母音だけとなる。しかし私達日本人がこれを「ダァーーッ!!」だと認識できるのは、母音の発音直後の聞こえ方により、その子音が濁音の「ダ」に最も近いと推測する能力があるからである。決して「タァーーッ!!」に聞こえたりしないのは、人間の聴覚が濁音と清音の母音の識別に優れているからと思われる。
実はこの推測能力は中国語の有気音と無気音の識別にも応用される。中国語の有気音と無気音の識別も、話者が遠くに離れていたりして子音が聞こえなければ、母音の発音直後の聞こえ方で識別するしかない。
また日本語の清音について、濁音ジに対する清音(ここでは有気音と無気音の対比上シではなくチを挙げる)について言えば、まず歯茎破擦音が発声された後、時間を置いて母音が発声される。この時子音を強めに発音すれば中国語の有気音qiになる。日本語のチは中国語のqiにとても近く、日本語でチーと発音すれば中国語のqi以外の音声に誤解されることは無い。対比して濁音ジの発声方法は、母音の発声タイミングが子音とほぼ同時になる以外はチと変わりが無い。これは有気音と無気音の決定的な区別の違い以外の何物でもない。日本語のチを発音する時に、吐く息をどんなに弱めても絶対に中国語のjiにはならない。もしも日本語のチを弱く発音して中国語のjiと認識されたならば、それは母音さえも弱く発音された結果、ジ(中国語ではji)と区別が無くなってしまったことになる。だから南京(nanjing:ナンジン)をナンチンと発音せよという教育法は完全に間違っていると決定付けられる。
ここで結論するが、有気音と無気音の発声法の決定的な違いは、子音の発音の強弱ではなく母音の発声方法であり、日本語の清音/濁音の母音と中国語の有気音/無気音の母音の発声法は等しい。よって日本語の清音で中国語の無気音を発声したら、母音が不適切に発声されることになるため正確な中国語にならないことになる。これはつまり南京を日本語の清音でナンチンと発音したら誤りということになる。

私がWEBサイトを検索した結果、中国語の有気音/無気音は日本語の清音/濁音で発音すべきだというサイトの方が、濁音による発音を許さないと言う不正教育サイトよりも多く発見された。以下に代表的なサイトのリンクとその記述を付記する。

http://www.go-chinese.com/pronounce.html より

・日本人の中国語初心者はboを小さな声で、poを大きな声で発音しがちですが、中国人は全く同じ音量で発音します。boを無気音、poを有気音と呼びますが、これは決して「無気力な発音」「気合のこもった発音」という意味ではありません。
・boとpoの違いは、「息の強さ」の違いではありません。「息を出すタイミング」の違いです。
 boとpoの区別ができない初心者は、とりあえず、日本語や英語ふうにそれぞれボー(濁音)、ポー(半濁音)と発音してゴマカしても、中国人は理解してくれます。ただし、中国人が耳できくとすぐに外国人の訛りであることがわかってしまいます。


http://www.1karachinese.com/2006/02/post_5.html より

日本のアカデミックな学習環境はなんとなくこれに似ています。有気音・無気音の区別ってそんなに大切ですか?
 わたしは敢えてこういう方法を提唱したいと思います。
 ○ 有気音は、ぱぴぷぺぽ、みたいな清音。
 ○ 無気音は、バビブベボ、みたいな濁音。
 これが全てです。
b/d/g/zの音はすべて日本語で言う濁音と考えましょう。唇をどのように閉じて息を抜くか、なんて理論はもう忘れましょう。濁音です、濁音。ガギグゲゴ、と同じです。
 それで発音して困ることはあるのでしょうか?答えは、全く無い、です。