私の超高速中国語学習法(5) 発音をマスターした者の視点から(1)

こうして、マルチメディア学習ソフトで発音を習得し、中国語学習の基礎固めを完成させた私であるが、今日は私の視点から世の中に溢れているいい加減な中国語発音教育について述べさせていただきたい。
私がまず言いたいのは、中国語の有気音、無気音の聞き取り程度すらできないくせに中国語の発音について偉そうな知識を振りまく日本人が世の中には多すぎるということだ。
この様な無能な教育者・学習者は、有気音と無気音の違いをよくこの様にして説明する。
「po(ポー)という発音は、口の前に幅2cm、長さ10cm位の紙切れを垂らし、これがなびく様強く息を吐く。だが、bo(ボー)の発音では紙がなびいてはならない。」
これは、視覚的なやり方なので実にポピュラーな練習方法として知られているが、まずこの方法を絶対的に正しいとして覚えたら間違いだ。更に私は次の様な誤った教え方も横行していることをインターネットの掲示板(内容は、初学者と教育者のやり取り)で知った。
これは、前述の紙垂らし法に加え、息を強く吐けば何でも有気音になるという論法だ。つまり、有気音qi(チー)の発音であれば、日本語に似た発音でチに力を込めて発音するが、qiに対する無気音ji(ジー)は、チに力を込めずに日本語に似たチーを発音するのが正しい。従ってjiに振り仮名を付けるならばジーとはならず、チーとなるという教え方だ。
全く甚だしい勘違いである。
もしも吐く息の強さで有気音、無気音の区別がされてしまうのであれば、相手の耳元でヒソヒソ話しをするのと、遠くにいる人に向かって大声で叫ぶのとでは言葉の意味が違ってしまうことになる。世界には把握できないほど多くの言語があるといえども、声の大きさで意味が違ってしまう言語などある訳が無い。そんなものは言語として成り立たないはずだ。中国語は5,000年の長きに渡り使用されている世界で最も歴史の古い言語のうちの一つなのだから、そんな実用性の無い言語ではない。
通常、音声を話者から遠く離れた場所や、電話及び電波の弱いラジオ放送などで高周波のカットされた音質の悪い状態で聞くと、日本語のサ行で発生する摩擦音や、ポなどで発生する破裂音の様な周波数の高い音声成分が聞こえにくくなるのだが、我々は多少の聞き取りにくさは感じるものの大抵は聞いて意味を理解できる。これは、わずかに聞こえる高周波の発声開始から声帯が振動して母音が聞こえるまでの時間の長さで高周波の強さが判断でき、また母音が急激に発声されるか、緩やかに発声されるかで母音の前の子音を推測できたりするからである。
中国語の有気音では、子音の発声開始から母音の発声開始までの時間が長く、無気音では短いというほかに、有気音では母音が急激に発声されるが無気音では穏やかに発声されることで聞き手はこれらを区別できるのである。
よって中国語の有気音、無気音が遠く離れた相手にも通じたり、電話の音声でも判断がつくのは声の大きさや息を吐く強さによる発声方法の違いではなく、子音の発声開始から母音発声までの時間のずれや母音の発声が急激かどうかの違いであるということである。
これで紙垂らし法について話を戻すと、有気音を小声で話す時は紙はなびかないし、無気音でも大声を出す時は紙がなびく程の強い息が吐かれなければならないのだから、単に吐く息の強さだけが有気音、無気音の発声方法の違いだと論ずることは誤っている。
だから、「jiはチーを息を弱くして発声する」という様な、読みの表記に濁点を使うことを許さない教育を正しいと信じた学習者は、再見(zai jian:ザイ ジエン)を発音しても日本語でツァイ チェンと聞こえてしまう。そして、有気音のcaiを発音させると、口から唾液が吐き出されるほど強く息を吐いた日本語のツァイを発音する。こういう学習者は、普通の息の吐き方でツァイと発音すれば無気音のzaiになるのだと信じ切っているのだ。数年前、NHK教育テレビの中国語講座で、タレントのはなという女性が初心学習者としてレギュラー出演していたが、彼女もzaiをツァイと発音せよという教育法を受けていた様であった。だからとてもヘタに聞こえたし、案の定、書店で売られているNHKテレビ中国語講座のテキストで「はなさんの無気音は気が強すぎます」という視聴者からのクレームが掲載される始末だった。結局はなさんのヘタクソな発音は最後まで治らなかった。
ここで、ついでにNHKテレビの中国語講座について述べさせてもらえば、平成17年の12月頃観た講座では、はな女史よりも数倍発音のヘタな日本人男性が登場して中国人と寸劇をしていた。子音発声の基礎学習もなされていないようであり、声調はデタラメ、自分の発音に自信が持てないらしく、声も小さくてハッキリ聞こえない。私はそれを観てテレビを消した。以来中国語講座は視聴していない。あれでは語学講座の意味が無い。こんなヘタな発音でも通じますよと言っているようだ。NHKの語学講座もだいぶ信頼性が落ちたものだ。
続く