私の超高速中国語学習法(8) クレイジー・クレイジー・リスニング

2004年位、中国で「クレイジー・イングリッシュ」という映画がヒットした。これは、簡単な挨拶文(Hello! How are you?など)を、大声でハッキリと、他人が聞いてウルサイ!!と怒鳴られる程何度も発音することで、英語を体で覚えようという初学者用の独習法が効果的だということで老若男女を問わぬブームになり、しまいには映画化されるほどの人気を博したという教育ムーブメントである。今回のタイトルと内容はこれを題材にした。
さて、私がマルチメディア学習教材の次に選んだ教材は、「はじめての中国語会話」というCD付きの初心者向け学習書だった。これも書店で数冊の候補を選んだ中から、CDに収録された会話のレベルが入門から応用まで広くカバーされていたことと、漢字の読み方を片仮名で表記する際に濁音を使用していた正規学習法であったことで購入を決定した。書籍の中身はともかく、私はとにかくCD教材が欲しかったのだ。
この学習書の添付CDでは、まず始めに中国語の漢数字(一〜十、百、千・・)から始め、私、あなた、彼などの代名詞、常用される動詞・名詞、極めて簡単な挨拶文などの「初歩の初歩」から録音が始められていた。続けて数十秒の中国語会話例文による単元が100近くある。これらをすべてマスターすれば中国語会話はおろか、文法知識と作文能力、漢字の判読能力、語彙力、ヒアリング能力は相当高いレベルに到達すると見て取れた。
私は第1回の単元から聞き取りの練習のつもりでCDを聞き始めたのだが、発音をマスターしたばかりで、まだ数少ない漢字の読み方しか知らない私には、当然ながら初めて聞く中国語文章は全く聞き取りが出来なかった。そこでこのCDの「初歩の初歩」レベルに戻り、これをすべてマスターしなければ先に進まないということにした。この時、CDの音声をカセットテープに録音し、通勤中の車の中や部屋で流しっ放しにして、同時にこれを発音し続けた。同じ録音内容の繰り返しに飽きてやる気が無くなったが、更に我慢して聞き続けた。我慢して聞き続けた事で「こんな程度で挫折したら、より難しい今後の学習さえも思うように進まないぞ!」という反作用が現れ、却って学習効果が高まった。これが私の名付けた「中国語版クレイジー・リスニング」の始まりである。
初めてのクレイジー・リスニングには1週間を掛け、次の「各単元のヒアリング」に向けた学習の基礎を固めることに成功した。そして次に各単元の会話文のヒアリングに移った。
この時も、CDの録音内容をカセットテープにダビングしたものを流しっ放しにした。それも、1つの単元を2回繰り返して録音することで、反復による学習効果を高めた。だが、CD教材の「初歩の初歩」から第一単元までのレベルのギャップは依然大きく、中国語会話のスピードが速い上に新しい単語が続出し、内容を理解することも、これに合わせて喋ることも困難を極めた。
だが幸か不幸か、この頃体調を崩し、風邪で発熱して会社を休むことになった。私は、「これはクレイジー・リスニングに集中できる絶好のチャンスだ!名付けてクレイジー・クレイジー・リスニングだ!!」と考え付き、朝から晩まで枕元でカセットテープを流しっ放しにし、時に集中して聞き取り、時にうなされ、眠りながら聞き続けた。果たして、この方法は絶大な効果を発揮した。
中国語の会話リズムを感じ取る能力を無意識に身に付け、まだ文法もロクに学習していない段階から、文章を聞いただけで簡単な文法構造が理解できるようになったのだ。さらに、このCD教材程度のゆっくりした会話速度ならば、あらゆる漢字の発音を聞いて間違えずに頭の中でピンインに変換できるようになったのだ。これは、例えばjizhongと聞いてそれが「集中」という単語だとは分からなくてもピンインがjizhongであると完全に認識できるようになったという意味である。この段階は、中国語検定試験準4級のヒアリング問題で100点を獲得できるレベルである。
その後も時に及んでクレイジー・リスニングを続けた事により、3ヶ月後には学習書「はじめての中国語会話」の全単元のうち前半の約半分は暗誦できるようになった。当然ながら、暗証した文の文法構造、単語も記憶された訳で、これで身に付けた作文能力、語彙力、ヒアリング能力は今でも私の中国語運用知識の基礎として重く据えられており、その後の検定試験などにも非常に役立っている。