私の超高速中国語学習法(9) 一石二鳥読書法

初学者ながら、ここまで驚異的なスピードで発音とヒアリングの能力を高めて来た私が次に力を注いだのは、文章の読解能力のトレーニングである。
ここで、次に使用する学習書として何を選んだら良いかが課題となった。
学習開始当初に、「新しい現代中国語語法」という250ページ位の教本を買って読んではいたが、読んだ割に余り記憶されていないのだ。単純に「面白くない」のだった。
ならば文法の学習は無視して、好きな分野の書物を対象に、いきなりまとまった文章を無理にでも和訳して読破してみようと思い立った。さすがにこうなると日本国内の書店で販売されている物ではテーマが狭すぎ、どれも私の趣味(小説などの作り物は嫌い)に合わないのだ。
そこで、私の業務能力の向上に役立つコンピューター関連の技術書を、たまたま上海へ短期間出掛けると言う知人に買って来させた。
当時、私はパソコンでWindowsのほかにMacintoshを使って仕事をしていたこともあり、中国語によるMac OS 8.1の入門書を教材として使うことにしたのだ。書籍名は「Macintosh 自学通」と、タイトルからしていかにも中国語の趣が漂う、超初心者用の入門書で、日本ではさしずめインプレスの「できる」シリーズに相当するものだ。だが中国語の書籍は日本語の入門書とは大きく違い、白黒印刷で挿絵や画像は少なく、細かい文字がビッシリと並べられている。その代わりに内容は充実しており、少ないページ数ながら広い分野をカバーしているのが特徴だ。
文章の読解には第1ページ目から困難を極めたが、始めは文法構造については余り気にせず、文章の大意が掴めれば良しとして読み進めた。私はMacintoshの操作方法については熟知しており、この本に記載されている技術的な内容は既に身に付けていたので、読んでも技術的に高度で分からなかったり、小説の様に、重要な部分を読み飛ばすと後の展開が理解できなくなるという心配は無かった。
最も苦労したのは単語の和訳で、いきなり「双撃」とか「屏面」などの現代的なコンピューター用語が頻繁に出現し、当然ながら新しい時代の用語なので一般的な辞書には掲載されておらず和訳不可能なのだが、それらが後の文章に何度も現れると「この単語はこういう意味で使われているのだ」という確信が持てるようになる。このようにして「双撃」はダブルクリック、「屏面」はデスクトップ画面という風に一つ一つ単語を解釈しつつ虫食い算パズルを解く様に読んでいくと、文法などそれ程気にせずとも文章の内容がハッキリと見えて来る。この方法に慣れると、初めて見るコンピューター用語も直感して和訳できるようになった。「調制解調器」とはモデム、「文字框」とはテキストボックス、などの様にである。これで非常に多くの中国語のコンピューター用語を暗記してしまった。
また、コンピューター用語以外に初めて覚えた単語とその読み方や文法(特に構文関係)は重要なのでノートに書き写したことにより最要点を整理したノートが出来上がり、復習にも役立った。
結局、この技術書の読破作業は、仕事で忙しく、なかなか自由時間が取れない中、他の分野の中国語学習の合間に行ったことで約4ヶ月を要したが、まともな技術書1冊をほぼ完全に理解したことで、この技術書を読み終わる頃にはコンピューター関連の中国語書籍の類は辞書無しで読み進めることが可能になった。この理由は、技術書というものは基本的にその技術を知らない読者に向けて分かり易く書かれたものであり、複雑な言い回しを避けて構成されているため、文章中で使用される構文も概して簡単で同じ様な物となっているからである。更にMacintoshの操作方法で今まで知らなかった知識や裏技も同時に身に付けることもでき、文字通り一石二鳥の効果を生む学習方法だと感じると同時にこれを格別に有効な学習方法として位置付け、継続することを決意した。
これをお読みになっている方で、この様な一石二鳥読書法をやってみたいと思った方には、作り物の文章よりも漫画や技術書を読むことをお勧めする。まず前述したが、小説は薦められない。日本文学の中国語翻訳版などで内容が分かっている物を読むのならば良いが、小説は文章の言い回しが必要以上に複雑で、終始辞書との格闘になると思われるからだ。中国語初級学習者には不向きである。
一方、漫画はお勧めである。これを執筆中の私も現在「漫画・理解日本」という中国で出版された漫画を読んでいる。中国語の漫画を読むという利点は、文字として読んだだけでは分からない名詞、動詞なども絵を見ることで理解でき、辞書無しでも読み進められるということである。
例えば文中に「銜(xian2)」という動詞が出現した時、これが漫画でなく、読者がこの文字を「くわえる」と訓読みされる漢字であるということを知らなければ辞書を引くことになるだろうが、漫画であれば絵を見て「銜(くわ)える」という動作を示す動詞であることが分かることになる。ただし、漫画の場合は文章を読まなくても意味が理解できてしまうため、緊張感の無い文章読解になってしまうので注意して欲しい。
私はこの時コンピューター関連の技術書を教材として選定したのであるが、人それぞれ専攻分野や趣味が違うので、医学に興味のある人は医学書、スポーツに興味のある人はスポーツの入門書・上達法などの様に、読みたい分野や得意分野の書物を選べば良い。小説などの作り物でなければ、どこから読み始めても構わないし、分からない部分は飛ばしても良いからだ。自分の好きな分野ならば、文章の意味が分かれば楽しめる。とにかく読んでいて楽しめなければ一石二鳥の学習効果は生まれない。次回は、私のその後の中国語書籍の読書による学習がどれだけ高密度に進められ成功したかを紹介する。