私の超高速中国語学習法(3) ヒアリングは演算能力

中国語の漢字の読み方は、日本語の漢字の音読みと似ているところもあれば違うところもある。
例えば愛、頼、刊、留などは日本語とほぼ同じでアイ、ライ、カン、リュウと発音する。また算、快、動、視はスワン、クワイ、ドン、シー(日本語のシーとはかなり違うが)と、どこと無く日本語に似た発音なので覚え易い。だが邪、逆、作、業がシエ、ニー、ズオ、イエと発音すると学習者が知った瞬間に中国語の膨大な漢字の発音の記憶という大きな壁が立ちはだかる。
中国語の初級程度の学力に到達すればよいという学習者ならば、500字位の読みを暗記できれば良いだろうが、上級者では2,000字程度を暗記していなければならない。私は高校時代に赤尾の豆単なる辞書に似た本で3,000語の英単語を覚えようとしたが、その半分を暗記するだけで精一杯だった。それに比べ中国語の漢字の読み方を仮に1,000字まで覚えたとしても、それはまだ漢字1文字の読み方を覚えたに過ぎず、そこから先は熟語を覚えなければならない。それも中国語の漢字には1文字で複数の読み方をするものが多数あるから、その漢字が使用されるときにどういう意味で使われるのかを考えながら漢字の読みを覚えなければならない。
こう解説すると、それならば始めから熟語を覚えて行き、熟語を覚えると同時に漢字の読みを覚える(労働という単語の意味と、lao2及びdong4という漢字の読みを覚える)一石二鳥の学習で行けばいいではないかという声が出るが、中国語の熟語の数はとても多いし、少しずつポツポツと覚えていたのでは次のような問題が発生する。
もしも、学習者がzhu3mu4(ジュー ムー)という熟語を初めて耳にしたとする。この時学習者の脳内では、zhu3(ここで、zhuとはピンインであり、3と言う数字は中国語で4種類ある声調のうちの第3声、つまり発声周波数を低いままにするということである。)と発音する主、矚、煮、渚などの漢字(全部で9種類くらいある。)と、mu4と発音する牧、目、墓、睦などの漢字(全部で16種類くらいある。)の9×16=144通りの組み合わせを試行し、その時の文章の脈絡に最も適したただひとつの回答を探し出すという演算が始められ、その結果最も論理上筋の通る「矚目」が選び出されることになる。因みに矚目とは、文語風の表現で「注目する」という動詞である。これが、単語だけを聞かされてその綴りや意味を答えるヒアリングテストならまだ良いが、まとまった文章の中で出現した単語であったならば、如何に多くの漢字の読み方を知っているかが理解の是非を分けることになる。漢字の読みを知っていなければ演算に使用されるデーターの蓄積も無いということだ。私も学習者として、文章のヒアリングで突然知らない単語が出て来ることはしばしばだ。この時に、記憶された大量の漢字の読みを高速で「組み合わせ演算」をする能力が中国語のヒアリング能力なのだ。熟語を多く覚えていればヒアリング能力が高まる英語とはまた違う能力が要求される。これだからこそ、中国語で個々の漢字の読み方を記憶するということは実に重要なことと言えるのである。
次に、漢字の読み方を記憶する上で注意しなければならない発音(発声)である。
私は、中国語の学習で漢字の読み方の記憶が重要だと結論付けた時、まだ読み方に付いての学習を始めなかった。入門書では漢字の読みを「プー」だの、「リアン」などと仮名を振って解説しているだけで、この通りに日本語読みをしていたのでは間違って発音を覚えてしまう。一度覚えたものを修正するというのは、記憶を消去して別のことを記憶するのだから2倍以上の手間が掛かることになる。これだけは避けなければならない。よって入門書を読むことからは一時遠ざかり、次はパソコンのマルチメディア教材を使った発音の入門学習に移ることにした。
続く