私の超高速中国語学習法(2) 教科書の選定

私の超高速中国語学習法、今日は教科書の選定プロセスを紹介する。
私は、学習方法にも入念なシステム設計が必要であり、行動をゼロから開始する瞬間のエネルギーの注ぎ方がその後の学習プロセスに大きな影響を与えるということを経験上知っていた。
まず初めの学習方向の選定に誤りが生じると、方向転換や誤解の解消に無駄なエネルギーと時間が消費されるものだ。私は合理主義者なので、日本人古来の物の考えも気に入らない時がある。例えば、製造業で「手間隙掛けて物を作ることは美徳である」という考えを私は強く否定する。
もともと日本人の不合理主義は、江戸時代の石田梅岩の理論に始まったものである。当時の工人も現在のような労務管理の元に時給制で働いていたというが、石田梅岩は、当時の工人に向かい、現代の言葉を用いると「一日の仕事を終えて帰宅しても、あなた方は家で娯楽に興じるのであろう。工場を管理する側としては、コストダウンのためにあなた方に残業代は払えない。しかし無償で残業することはあなた方の遊び金を節約し、技術を向上させ、ひいては高い徳を積むことになる。徳や技術は金には変えられない価値のあるものだ。ここにあなた方の作った包丁がある。あなた方は1日8時間で1本の包丁を製造している限りは、他の工場との競争には勝てない。1日8時間の労働時間に加えて2時間の残業を行い、1本の包丁に2時間分の付加価値を付けて従来と同じ価格で売れば、消費者はあなた方の製品を選んでくれる。だから無報酬の残業に喜んで精を出すべきだ。」という意味の理論を説き、多くの人々に支持された。これが現在も続く日本製品の高品質、高付加価値追及の始まりだ。
しかし、これが長い年月の間に常識化し、いくら品質が良くスマートな設計がされた製品であっても、手間隙掛けた痕跡の無い物は悪だという考えもまた定着していった。だから日本人サラリーマンは、一日の仕事を完了させてもダラダラと残業を行い、日本製の製造物は無意味且つ過剰な品質管理が逆に仇になって中国製の製品に駆逐されている。日本人もようやく、100円ショップの普及などにより、シンプルで合理的な設計の上に手間の掛からない製造方法を経た製品で大きな品質上の問題が無ければ、購入する価値があるという世界の常識が分かって来た様である。
さて、私の合理主義で行くと、学習には良い学習も悪い学習も無いのだ。試験でカンニングする様な不正行為は別にして、歴史の年号や法学の要点を語呂合わせで覚えることを禁じたり、漢字の書き取りの様なものはただひたすらに繰り返して覚えるのが美徳だとか言う教育法が善であるなどとは決して思わない。逆にどんなにダーティーで手抜きな学習方法でも、その学習者の能力を高めるか、または少ない時間で同じ効果を生むならば積極的に採用すべきなのである。
そこで、まず最も重要なのは、初めて目を通す中国語のテキストという物をどのように選定するかという事とした。
それでかなり大きな書店に行き、中国語の入門書をまず1冊選ぶ事にした。
中国語の入門書は30〜40種類あったが、比較した結果、漢字の発音の詳細(舌や声帯をどの様に使うかなど)について余り詳細な記述の無いものを選ぶことにした。これは、中国語で使用される漢字の発音は日本人には覚えにくいためテキストの文章だけから発音方法が理解できる訳が無く、発音の学習用にパソコン用のマルチメディア(現在は余り使われない用語だが、CD−ROMでテキストの表示以外に音声や映像などを再生できるようにしたもの。)学習ソフトが数多く発売されているのだから、これを利用した方がスマートに学習が進められると判断したからだ。
中国語の入門書の選定基準を上記の様に決めた後、私はひとつの結論を得た。
中国語の文法というものは英語ほど難しいものではなさそうである。語学とは読む、聞く、話す、書くの4つの能力を平均して向上させていく物とすれば、聞くにも話すにもまずひとつひとつの漢字の読みを早く覚えることが高い学習効果を生むことになろう。それならば、文法よりも漢字の読み(発音方法でななく、下記に述べるピンインの話である)について厳格な教え方が記載された入門書が良いことになるのだ。
そこで、この条件に合う入門書に的を絞り、複数を吟味した。
まず最初の候補となった入門書Aは、初めて登場する漢字にはピンイン(中国語の読み方をアルファベットで表記したもの)とカタカナによる日本語読みが併記されているが、何度か登場した後は学習者の記憶力を養成するため、漢字のみで表記されるようになっていた。学習者を甘えさせないこの方法は私の学習姿勢にも適合した。更にA書では、中国語の漢字の読み方が日本語の発音と極めて似ているものを抽出し、4つある声調(中国語で、1つの漢字を発声する時の周波数の変え方)でこれらの漢字を分類した早見表を巻末に掲載していた。これは他の入門書に比べ遥かに科学的、論理的な教育方法だった。
ほかの入門書は、カラー印刷や挿絵を使って幼稚にかわいく仕上げてあったり、ピンインに併記された漢字の読み方が「ち〜ん」とか「つぁい ちぇん」とか「クぅぁん」の様に平仮名と片仮名混じりで表記されていて、これを理解することに集中力が向けられて頭がおかしくなりそうなものもあった。それに内容に比べ価格が高価なこともあってA書以外は候補から外した。結局わずか180ページ、単色刷りのA書が最も優秀な入門書と判断し、帰りの電車の中で早速読み始めた。
A書とは、芸林書房発行の「3時間でもこんなにできる!誰でも話せる中国語」という書籍で、大手造船会社、証券会社の海外勤務を長く勤めるうちに9カ国語を習得したという著者の執筆である。さすがに語学者上がりでないために、語学を科学的に分析して効率良く学習するプロセスを心得ていることに感心した。

続く