我的拍売戦記(9) 諸国清酒徳利コレクション

今日のオークション戦記は、私の数少ない出品物の中から「諸国清酒徳利コレクション」について述べる。
私は建設コンサルタント会社に勤務しているが、社内には建設業部門があり、建設廃材のコンテナが資材倉庫に設置してある。
ある日、陶器・ガラス専用コンテナに、珍しく酒徳利が数本捨ててあったので、倉庫部の従業員にどこから出た廃材かと尋ねたところ、同じ倉庫部のT氏が家にあった物を処分したのだということだった。この酒徳利に興味を持った私は、T氏に詳細を聞いてみた。
T氏によると、これは昭和40年代から昭和50年代にかけて国内各地を旅行しながら収集した当地の銘酒の徳利(2合入り)だったが、要らなくなったので捨てたという話であった。
徳利は合計8本あり、コンテナに投げ入れられた時の衝撃でうち2本が割れていたが、残る6本は幸運にも無傷だった。銘酒の産地は東北から九州までの国内各地にまたがり、インターネットで調べると現在は廃業してしまった酒蔵のものも含まれていた。だが私が見ても、お世辞にも高尚なコレクションとは言えない。将来値打ちが出るほど価値の高い物とも思えなかった。
私は、ふと「これ、オークションで売ってみたら珍しがって買う人がいるかも知れないぞ」と口に出して見た。T氏は「じゃあ売って見ればいい。どうせ誰も買わないから。」と答えた。そして、私とT氏の間で賭けが成立した。
<価格に関係無く、徳利がオークションで売れた場合は、T氏は私に褒美を贈る。売れなかった場合は私は倉庫部の笑い物になる。>−−これが両者の契約内容だった。
その日私は、廃材コンテナの酒徳利6本を入念に梱包し、自宅に持ち帰り、水洗いした後アルコールを付けて拭き、徹底して清掃した。翌朝、徳利を日当たりに並べてデジタルカメラで撮影し、その翌日オークションに出品し、T氏に出品したことを伝え、インターネットで出品内容を確認してもらった。出品開始価格は500円で、送料は落札者負担とした。
T氏は、私の出品物の紹介画像が手の込んだ画像処理を施され魅力的なものに仕上がっていることや、購買意欲をそそる紹介文に唸ったが、売れるわけが無いという考えは変えなかった。
そして、出品から3日後に、予期せず500円の入札者が現れていることが分かった。これを聞いてT氏は青くなった。
結局、最初に入札を掛けた落札者が入札開始価格の500円で落札した。私は落札者と連絡を取り、入金を確認して即日に発送した。落札者は札幌市で小さな居酒屋を営む主人で、店の雰囲気に合った装飾品としてこの商品と価格を大変に気に入ってくれた。
私は、商品が無事に到着したことを知った翌日、午後の休憩中に倉庫部に顔を出し、T氏との間でこのような賭けがあったことや、私が見事賭けに勝利したことを全員の前で話し、高笑いした。T氏は負けを認めて、後日に缶ビール6本を差し出した。