我的拍売戦記(5) ブルース・リーDVD5部作その九

ブルース・リー死亡遊戯」の続きだ。
途中の無意味なストーリーを飛ばして、有名な「死亡の塔」での戦いが始まる。1階は双節棍(中国武術を知らない日本人は、これをヌンチャクと呼ぶらしい。)振り回しの始祖と呼ばれる男との対戦。この「〜の始祖」という仇名は、この作品の香港上映用の予告編に出て来るものだ。この対戦相手が誰なのか私は知らないが、双節棍を使ったアクションというものはブルース・リー以前に存在したのだということが分かった。
2階の相手は、NBAの名選手で、後にブルース・リーに弟子入りしたと言うアブドル・バジャーという大男である。先に引用した予告編では、中国語でバジャーを「身高7尺3寸的飛毛腿」と紹介している。この表現からするとバジャーの身長は2.43mあることになる。なお「飛毛腿」とは長身且つ身軽で俊足な怪人という意味である。中国のお伽話ではよく使われる飛毛腿という表現だが、実在の人物を飛毛腿と形容する用法は、これ以外の例を私は見た事が無い。
この映画作品イメージのスチル画像などでは、バジャーを近くに、リーを遠くに配置して撮影したことによりバジャーの身長がリーの2倍もあるようなものがあり、本当はどれ位の身長なのか今までハッキリ分からなかったが、中国語による紹介によって初めて真相を掴むことができた。
この対戦については実に様々な伝説や未確認情報があるが、代表して2つ取り上げたい。
(1) まずバジャーにリーが接近すると、バジャーがリーの腹を蹴っ飛ばすが、あるWEBサイトでは、「蹴った足と、リーの服に付いた足形が逆だ」とされていたが、私が確認した結果、どちらも右足であり、不自然な所は無い。
(2) 私が中学生の頃、このバジャー対リーの対戦に関して世間に広まった怪情報である。それは「バジャーの長身は遺伝子の突然変異による巨大化で、足の指が6本ある多指症」であり、これを積極的にアピールするために、足の裏に墨を塗ってリーの腹にクッキリとした足跡を付けたというものだ。私がこの怪情報を聞いた時、世の中にはビデオデッキというものが無く、映画を見たければ映画館かテレビの映画放映で観るしか他に方法が無かったので、確認したくてもできなかったのだが、今回この作品をDVDで鑑賞したことで、この情報の真偽が明らかになった。だが、これは公開したくないので、読者の皆さんはDVDを入手するなどして独自で御調査下さい。
リーはバジャーも倒し、ヘトヘトに疲れきり3階に上る。この時の表情が笑える。これ以上どうやって戦うの〜〜?と言い出しそうな、リーにしては珍しい弱気な表情だ。3階の相手を倒すと、4階には悪の組織のボスがいるのだが、手首を切って失血死した姿の人形が置いてあり、ボスは既に逃げていた。リーは、屋上からボスが逃走したと察知するが、どこから逃げたのか分からない。ひとつだけ屋上に通じるのは窓であった。リーは窓を開けようとするが、頑丈な窓で開きそうに無い。焦るリーは、数歩の助走を付けて、体当たりで厚いガラスを破るという手段を敢行した。
さあ。このシーンもまたスローモーションだ。助走に入ってからガラスを破るまでは長くても2秒で終わるシーンを、5秒位に伸ばして再生している。それも「オアーー!」と奇声を一声上げれば済むものを

「オァァァァァァァァァァァァァァァアハアーーーーーーーーーーーーーーーアーーーーーーーー!!」

と、超わざとらしい音声によるアフレコが使われている。これだけでも充分笑いが取れるのだが、更にこのシーンでは本物のガラスが使われている。
’70年代から、アクション映画やテレビドラマの撮影で、体当たりしてガラスを割るというシーンでは、俳優がガラスの破片で負傷するという事故が続出し、その後映画撮影用に割れても破片で負傷しないというガラスが開発され、映画やテレビの撮影ではこのタイプのガラスを使うことが主流になった。ただ、観ている側が注意すると、これが本物のガラスではないことが分かってしまう。破片のでき方、破片の重量感で撮影用の偽ガラスと分かってしまうのだ。
この作品が撮影された時代には、まだ偽ガラスは無かったため、ブルース・リーの偽俳優も負傷することに恐れ、緊張しているのが表情から読み取れる。これで割られた厚いガラスが鋭い大型の破片になり、偽リーの上半身に直撃しそうになる。これで負傷しなかったのだから運が良すぎる。
こんな危ないシーンを大真面目でやっているという、’70年代の映画撮影事情はこうだったのかということを思うと、爆笑せずにいられない。

まだ続く